草間 華奈Kana Kusama
[バレエコース講師]

東京シティ・バレエ団所属。同団付属バレエ学校本部教師/豊洲教室教師。洗足学園音楽大学バレエコース講師。

実はミュージカルをやりたかった。
バレエコース・草間華奈先生が再び「バレリーナ」になった理由

洗足学園音楽大学の魅力のひとつは、多様なバックグラウンドやキャリアを持っている教員が多数在籍していることです。本シリーズでは、魅力ある教員の多彩なキャリアをインタビュー形式でお伝えしていきます。

東京シティ・バレエ団所属。同団付属バレエ学校本部教師/豊洲教室教師。洗足学園音楽大学バレエコース講師。
多数のスタジオで指導しコンクール上位入賞者を輩出する一方、バレエ団公演ではソリストおよびバレエミストレスとして活躍。振付家として創作作品やオペラのバレエシーン振付も手がけ、東京シティ・バレエ団が開催する「シティ・バレエ・サロン」では全公演で作品を発表している。第50回埼玉全国舞踊コンクール創作部門第3位ほか受賞歴も多数。
代表作に小林洋壱振付「HOTARU」「Circle of Life」主演。小澤征爾音楽塾オペラ、新国立劇場オペラや各種ミュージカルへの出演に加え、BUMPOFCHICKEN「ゼロ」ライブ映像やNHK「ピタゴラススイッチ」など映像作品にも多数出演。バレエ雑誌やメーカーモデル、ドラマのバレエシーン監督補佐を務めるなど活動の領域を広げている。

実は「ミュージカル」がやりたかった

──草間先生がバレエの道に進もうと思ったきっかけを教えてください。

実はもともと、ミュージカルをやりたいと思っていたんです(笑)。

もちろんバレエは小さい頃から習っていて、中学3年生の夏休みにはバレエ留学でロンドンにも行きました。私の周りには中学を卒業した後にプロの道に進む先輩もたくさんいましたが、実際に私もバレエ留学をしてみると、「あれ?なんだか違うかも……」と思うこともあったんですね。

それから、中学を卒業したらずっと気になっていたミュージカルにチャレンジしてみようと思い、関東国際高等学校(演劇科)に進学しました。高校在学中にミュージカルのオーディションもたくさん受けて、さまざまな舞台にも出演しました。

──現在に至るまで、草間先生はバレエ1本で活動されていたのかと思っていました。「ミュージカルをやりたい」と思っていた時期があったとは。

そうなんです。最初はミュージカルがやりたかったので、言うなれば高校入学時点でバレエを辞めているんです。

ただ、ミュージカルは歌だけではなく、演技や踊りの技術も必要じゃないですか。あるとき、学校の先生に「いい役をもらうには何かを極めていた方がいい。せっかくバレエが踊れるのだから、もっと極めなさい」と言われたんですね。

高校ではジャズダンスやタップダンスなどの勉強もしていたのですが、その先生と出会ったことでまた一からバレエを向き合うことになりました。それから先生が「バレエ団に入ってキャリアを積みなさい」とアドバイスをくださったことがあって……。いろいろと悩みましたが、結果的には先生からの言葉がきっかけで東京シティ・バレエ団のオーディションを受けることにしました。

入団1年目、体重が10kg落ちる

──東京シティ・バレエ団のオーディションを受けたときのエピソードについて、伺いたいです。

なんとか1回で合格できましたが、相当倍率が高いので本気で「1次で落ちた」と思いました。自分の番号が呼ばれても、「呼ばれた気がするんですけれど、間違いじゃないですか……?」みたいな感じで、恐る恐る確認しに行ったくらいで(笑)。

合格したことはとても嬉しかったです。しかし、それと同時に「ここからが大変だ」という気持ちでした。私はバレエから1回離れてしまったけれど、これからはバレエ1本で頑張ってきた人たちの中に入って頑張らなければならない。プレッシャーはありました。

──バレエ団に入団した後「やっぱりミュージカルだけに集中したい!」と思った瞬間はなかったのでしょうか。

意外なことに、なかったんです。

というのも、実は入団1年目に10kg痩せたんですよ(笑)。帯状疱疹にもなったり、疲労骨折をしたり、半月板を損傷したり……。肉体的にも精神的にもギリギリの状態で活動を続けていました。あまりに忙しすぎて、ミュージカルに気持ちを向ける余裕がなかったことが、まずひとつ。

入団1年目、10kg痩せた当時の草間先生。

大変ではありましたが、バレエ団のオーディションを勧めてくださった先生は「コールド(群舞を踊るダンサー)やソリスト(主要な役を踊るダンサー)。バレリーナとしてのキャリアを積み上げて、それでもミュージカルの道に行きたかったらオーディションを受けたらいい」と言ってくださっていたので、何年かはバレエ団でキャリアを積もうと思って頑張っていましたね。

また、ありがたいことに役はいただいていたんです。病気や怪我もあったけれど、ひたすら稽古と本番の日々を続ける中で、「今のままもいいな」って思える自分がいることにも気づけました。

「踊る」ことの魅力を再認識する

振り返ってみると、やっぱり私は踊るのが好きなんだなって。ミュージカルからバレエの道に進んだときは技術を身に付けるために必死だったのですが、舞台の上に立って表現をすると、やっぱり楽しい。

1度バレエを辞めた気でいたからこそ、改めてその道に入ってみて、バレエの魅力を再認識できたように思います。

──バレエ団に入られてからというもの、踊ることに加えてご自身で作品を作る活動もされています。創作活動はいつから始められたのでしょうか。

参考:東京シティ・バレエ団

おそらく13年くらい経ちますね。最初のきっかけは、バレエ団が企画する「シティ・バレエ・サロン」というイベントの作家募集でした。

最初は作品を作ることに全く興味がなかったのですが、「やってみたら?」と言ってくださる先生や先輩がいて、チャレンジしてみることにしたんです。今年で「シティ・バレエ・サロン」は14回目になるのですが、毎年作品を出し続けています。

──最初に作り上げたのはどのような作品だったのか、伺いたいです。

高校の後輩で中嶋ユキノさんという歌手の方がいるんですけれど、中嶋さんの曲がすごく好きで! 中嶋さんの曲を使って作品を作りたいと思い、『だいじょうぶ』という曲を使って作品を作らせていただきました。それが初めての作品作りでしたね。

中嶋ユキノさんのブログより。左:中嶋ユキノさん 右:草間先生

それからも曲に対して振り付けを入れることもあれば、照明や背景、音の雰囲気のイメージが浮かんだ後に曲を探し、それに対して振りを入れていくこともあります。今の私にとって、「創作」は大切な活動のひとつです。

「必要とされる」バレリーナになること

──草間先生は普段、どのようなことを意識して学生に指導を行なっていますか。

バレエの道を志す人は「自分」にばかり焦点を当ててしまうこともあるんですね。自分が役をもらいたいとか、自分が誰よりも目立ちたい、とか。そんな気持ちがあるからこそ頑張れる部分もあるとは思うのですが、やはりバレエの舞台に立つには「必要とされる」ことも大切です。

バレエ団自体は自分から選んでオーディションを受けるけれど、そこから先は「選ばれる側」になります。そのためには、演出家や振付家の意図を汲み取って、自分の中で咀嚼して、自分なりの答えを出し続けていかなければいけません。

たとえば、何かのプロジェクトを進めるときに「言われてない」とか、「書かれてない」から「できない」となってしまっては、掴めるチャンスも逃してしまいます。だから、自分のことだけに向き合うことも大切だけれど、周りの意図を汲み取る能力や経験も培う必要がある。

バレエに関する技術や知識を教えることはもちろん、そのような部分も大切にしながら、日々学生のみなさんと向き合っています。

また、洗足のバレエコースには素晴らしいカリキュラムが揃っています。私が高校を卒業する頃にこのバレエコースがあったら、本当に入っていたかもしれない……と思うくらい!

洗足のバレエコースでは「バレエ団に入ってから必要となる知識や技術」を習得できるよう、授業が組まれています。日々のレッスンは大変でも、このカリキュラムに食らいついていけば、素晴らしいバレリーナになれる。

いろんな「好き」を大切に!

──最後に、バレエコースの学生に向けてメッセージをお願いします。

みなさん踊ることが好きで、「やりたい!」と思って大学まで来ていると思います。まずは何より「バレエ」を好きであり続けてほしい。そして、バレエの技術を磨くことはもちろんですが、舞台をサポートする立場だったり、イチから舞台を作り上げる立場だったり……。4年間大学で学ぶ中で、そのような経験値がある人にもなってほしいと思っています。

私は人から言われた言葉に従って、流れに身を任せた結果、ここにいます(笑)。でも、損得なしに、その時々のベストな選択を考えて取り組み続けてきたから、今がある。だからこそ、自分が得意なところとか、なんとなく「できそう」と思うことは、学生のみなさんにもとにかく一生懸命取り組んでほしいです。それが、何かのご縁につながる可能性だって大いにあるから。

また、バレエコースの授業では、ひとつの舞台を制作するにあたって役割分担があります。SNSを始めとした広報、衣装制作、動画撮影……など。さまざまな役割を学生のみなさんに担当していただくのですが、学生によっては「動画を撮るのが得意」だったり「表を作るのが得意」、「情報をチェックするのが得意」な方もいるんですね。

そういった「好きかどうかわからないけれど、自然とできてしまうこと」も、この4年間でたくさん見つけてほしい。たとえやる気がなくたって、取り組んでいくうちにどんどん好きになるかもしれませんし、気づいたら自分の特技になっているかもしれないじゃないですか! いろんな「できそう」や「好き」を大切にしながら、自分自身、そしてバレエと向き合い続けてほしいと、私は思っています。

Text and Photographed by 門岡 明弥