活躍する卒業生

ピアノコース

大丸 智史

僕は故郷である富山県の中学校にて実習を行いました。生徒指導と道徳指導に力を入れているため大変良い校風を持ち、そこで育つ天真爛漫な生徒たちからは明るいあいさつが絶えることはありません。そんな理想ともいえる環境の中、実習生としての3週間は始まりました。ですが、いくら学校の環境に恵まれているといっても、失敗と反省は必ずなんらかの形でつきまとってきます。以下はあくまで僕個人が経験したものでしかありませんが、今回はそこから学んだなかで今後教育実習に向かう皆さんにとっても重要だと思われるものをいくつか紹介したいと思います。
まず最初の失敗は、実習の3週間という期間をとても長いものだと思い込んでいたことです。実習先が中学校の場合、音楽の授業はクラスごとに週1~2時限しかありません。それはつまり、全校生徒の大半とは、実習中の授業の3回程度しか顔を合わせることができないということです。
その3回の授業で実習生は何ができ、生徒に何を残せるでしょうか。
自分が生徒の立場であったら、実習生のどんな姿に惹かれるでしょうか。
実習最後の研究授業になっても、生徒をよそよそしく「廊下側の列の前から2番目に座っている君」と教壇から呼び続ける姿を応援したくなるでしょうか。
ここでの反省は「期間内に全員の名前を覚えられたか」ということではなく、「最初からいかに積極的に生徒との距離を縮めていけたか」です。名前を覚えきれていないなら、逆にそこを話の発端にして話題を繋げていけばそれは立派なコミュニケーションとなります。
実習の少ない授業時数で、知識を教える前にいかに生徒の興味・関心を自分に向けさせられるかどうかは大きな鍵となるように感じられました。極端な話、だらだら適当に過ごしていても実習は終わります。ですが3週間で何を学んで戻るつもりなのか、何を残して学校を去るのかを強く意識していれば、逆になによりも多くのことを自ずと学べると思います。
僕はこのことに2週間目でようやく気づけたことが非常に残念でなりません。
2つ目の失敗は、授業計画を練りきらないまま教壇に立ってしまったことです。生徒が発問に対して自分の思うような反応を示さなかったらどうするのか。これで意図が伝わる、と思って投げかけた言葉が上手く届かなかったらどう言い換えればいいのか。楽譜の冒頭に強弱記号が書いてなかったらどのくらいの音量が適切なのか。またそれはどうしてその音量でなければならないのか。
挙げ連ねるとキリがありませんが、これらは実際に僕が準備不足ゆえに経験したことです。最後の強弱に関する質問に至っては、「ほら、ここはこんな印象があるでしょう?だからこれぐらいの強さで...」と自分の感覚論でごり押しした結果、それを聞いたクラスになんとも言えない微妙な空気が漂って気まずくなったことをしっかりと覚えています。
生徒、とりわけ中学生からは何が意見として飛び出してくるかわからない突拍子のなさがある、と最初に実習先の先生から伺いました。それがその子の本音である限り、生徒の意見を「この子は何を言っているんだ」と笑って片づけていけない時が多々あるのだとも学びました。
生徒ひとりひとりの価値観や心情、考え方を推し量り、発言を想定することは大変に難しく気力を要することです。それに慣れないうち、生徒のレスポンスを細やかに予想しきれないうちは、指導計画の要所要所でいくつもの返答のパターンを用意しておき、どんな場面でもなるべくスムーズに授業を進行できるよう念入りに準備しておいて損はないと思います。
そんなこと、実際に現場に行ってみなくちゃどう対策すればいいかわからないじゃないか!と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、そのための「音楽科教育法」の講義であり、そのための模擬授業であることを一度振り返ってみてください。
他にも細かく挙げれば枚挙にいとまがありませんが、僕が今回の実習で感じた大きな二つを紹介させていただきました。教育実習をこれからに控える方々の心に少しでも留まるものがあれば幸いです。

Profile
富山県黒部市出身。
ピアノを小学1年生より太田顕子先生、高校3年より加藤徹教授に師事。
大学入学後、作編曲にも興味を持ち、コンピューターを用いて既存曲のアレンジやオリジナル曲の作成を行うようになり、大学4年次にて作曲を三上直子先生に師事する。
絵本の読み聞かせと音楽のコラボレーションを研究する「たんぽぽの会」のメンバーであり、教職科目を通じて知り合った安藤友子先生および谷川マユコ先生のもと、朗読と楽曲提供を行っている。
2012年4月より、洗足学園音楽大学大学院の音楽・音響デザインコースに進学予定。
趣味は楽器ショーめぐりと料理、好きなアーティストは倉橋ヨエコ氏。

※プロフィールはメッセージ掲載時のものです。

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