大学院

【レポート】『バレエ伴奏法の授業 実習の報告』

2017.07.26

バレエ伴奏法の授業レポート
大学院ピアノ 川口春霞

私は現在洗足学園音楽大学大学院で、バレエピアノという少し特殊な分野の伴奏ピアニストになるべく勉強をしています。大学院では一人一人の個性を大切にしてくれ、今年度からは“バレエ伴奏法”というバレエピアノに興味がある学生のための授業も開設されました。この授業ではプロとして多くの場で活躍されている稲葉智子先生が、バレエピアニストとしての心得から細部にわたる技術や表現方法まで、とても丁寧に指導してくださいます。また、本学のバレエコースの学生が不定期で授業に参加し、実際にダンサーを踏まえての実践型の授業も行われます。

さらに私は大学内でのバレエコースのレッスンピアノや、谷桃子バレエ団のアカデミークラス、団員・準団員クラスのレギュラーピアニストを担当させて頂いており、授業で学んだことを実際に実践の場で活かすことでより理解を深めることができます。このような大変充実した環境で日々勉強しておりますが、そんな中、先日あるご縁で外部のバレエスタジオでロシア人講師によるクラスのレッスンピアノを担当させて頂くことになりました。初めての外部での実践となった、その貴重な経験をレポートにまとめたので、以下にご紹介させて頂きます。

 

実習の報告

日時: 7/1(土) 14:15~17:15
講師 :ヴァチェスラフ・イリイン先生
場所 :新宿村スタジオ

私は 7/1(土)、初めて大学関連の現場以外でバレエピアニストとしてクラスを担当させて頂く機会に恵まれた。いつもとは違う環境でのこの経験は、私に多大なる刺激と感動をもたらし、それを文章としてまとめてみようと思いレポ ートを書くことを決めた。以下大まかなレッスンの流れに沿って、感じたこと・学んだことを記していきたいと思う。

 

1. 通常クラス(14:15~15:45)

足慣らしとストレッチからレッスンがスタート。前半は両手バーのゆっくりとした足慣らしが中心で、後半は肩や首を回したり動きが出てくる。曲は優しい 2 拍子の曲を選択したが、前半と後半では弾き方を少し変えてみた。前半は少し粘り気をもたせて伴奏はツタータツタータ(♪♩♪ ♪♩♪)というものにし、後半は少し軽快な動きに見えたので伴奏をタッタタッタと付点のリズムにして差を出した。
プリエは比較的ゆっくりのテンポ。この時点でイリイン先生は、求めるテンポより少し早めに振りを出すことがわかったが、初めての講師のクラスを弾く際はこのようにレッスンの中で特徴を掴めるよう気を配ることが必要だと感じる。
タンジュ・ジュッテは数種類あったがどれも全く違ったエクササイズ。ただ2 拍子の軽快な曲を楽譜の端から端まで弾いたのでは、せっかくの振りがもったいない。5 番ポジションから足を出すところと前後に体重移動するところでは明らかに踊りの表情が違うし、当然それを助ける音楽の質も変えるべきである。今回は音量やペダルの量、音のタッチ等で工夫しようと努力した。
ロンドジャンプアテール・フォンデュに関してはプリエ同様かなり遅めのテンポ。しかしそれをただ遅く弾くという認識ではなく、それだけたっぷり表現してほしいという意思の表れととらえ、間延びしないよう音数を増やしながらもダンサーを助けるべく自分自身もよく歌ってみた。
フラッペはそれまでゆったりしたものが続いたため、空気を変えるべくレパ ートリーの中でも明るくて軽快な曲を選択。 ロンドジャンプアンレールはいつもなら軽快な3拍子を求められることが多いのだが、イリイン先生はコーダの音を要求。予想外の曲の指定で少し慌ててしまいあまり余裕はなかったが、どんな風に音を使っているのかチェックでき勉強になった。
時間でいうと25分くらいだろうか。比較的短めでバーレッスンが終了した。続くセンターレッスンはその後のポワントクラスとよく似た内容であるため、まとめて記していきたいと思う。

 

2. ポワントクラス(15:45~17:15)

通常クラスのセンターレッスンとポワントクラスどちらにも共通したことだが、イリイン先生は 1 つ 1 つの振付にわかりやすいストーリーをつけ、より楽しく、より表現が具体化されるように生徒に促していた。そしてこのストーリー付きの振りの出し方こそが今回の経験の中で私が最も感銘を受け、レポートを書こうと思ったきっかけである。
まずはセンタータンジュ。ストーリーは『朝起きて、歯を磨く』という単 純なもの。しかし先生がお手本を見せる時の表情や動きをチェックすると、細かな表現・描写が見て取れた。『最初は眠そうに伸びをして眼をこすりながら歩いていき、洗面台へ。歯ブラシを手に取ってシャカシャカ手を動かし、鏡に向かってにっこり笑顔。軽快な足取りで退場。』…もちろんこれは私が主観的に感じただけで、あくまで一定のテンポの中での表現である。 しかしこのようなストーリーが明確にある振りは、ある意味音楽の変化をつけやすいものかもしれない。テンポはほぼ一定だが、最初の眠そうなところや歯ブラシをシャカシャカ動かすところなんて、工夫できたらとても楽しそうだ。私自身もその場で初めてその動きを見て考えるわけだから、当然弾きながら
色々試してみたのだがどうもなかなか良いアレンジができず、悔しい思いをした。しかしもっと音楽で振りの魅力を最大限に引き出してあげたいとここまで強く思えたのは、初めてだった。
そして私がもっとも刺激を受けた、ポワントクラスの最後のアダージオ。ストーリーは『羽が折れた悲しい鳥がなんとか飛びたくて一生懸命羽ばたくが、どうしても飛べない。しかし最後の最後で思いが通じ大空に羽ばたいていく』というもの。こちらも先生が悲しい鳥という表現をした瞬間に短調の曲を弾こうと思ったが、最後は願い叶って飛んでいくという希望に満ちた内容であるため、ずっと短調なのも味気ない。短調から徐々に明るくなっていく 16 カウントの曲、なんて都合のいい曲を短時間で探すことも難しいので、やはりここは即興かアレンジ力が必要になってくる。今回私は短調で始まるオリジナル曲を選択し、途中から内容に合わせて明るくなっていくようアレンジを試みたが、その振りぴったりの雰囲気の曲をその場で即興できたらも っと表現に寄り添えただろうなと悔しくも思った。しかしその場でできることは限られているのだから、今の自分の能力の範囲で、少しでもなにか工夫できないか考えることができたのは良かったと思う。

少なくとも今までの私であればアダージオと言われればただゆっくりの 3拍子を楽譜通り綺麗に弾くことしかできなかったが、今回初めて振りに寄り添う音楽表現の必要性をこの身で体験することができた。しかしそれは今回たまたまそのことに気付くきっかけになっただけで、普段弾いているクラスも全く同じことである。ストーリーのような直接的な表現がなくとも、振りから微妙なニュアンスをくみ取り、音として表現する。これこそがレッスンCD ではできないことであり、現場で空気を感じながら音楽を奏でるバレエピアニストの魅力である。私は今回の経験で学んだことを今後の勉強に活かし、今はまだあまり知られていないバレエピアニストの魅力・存在意義をもっと広めていけるよう、これからも努力を惜しまず勉強を続けたいと思う。